その天王山の南東面の中腹に赤い大屋根が見える、大山崎山荘美術館は以前から一度訪れて見たいと思っていた処。
画像の中央にある中腹の赤い大屋根が大山崎山荘。(2013年)
連休の午前中は道路が混みそうなので昼食後に午後から一家3人で出かける。
(山荘には駐車場は無い)
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1900年代初頭に大阪の実業家、加賀正太郎がヨーロッパ外遊から帰国後に、自ら設計し、週末を過ごす別荘として建てた英国風山荘で。十数年ほどかけて一階建てから三階建ての欧風山荘へと改築された。その建築初期から、もうすぐ築後100年になる。
加賀氏はNHK朝ドラの主人公、『マッサン』こと竹鶴氏とは知人であり、竹鶴氏の独立、ニッカウィスキーの創立に出資、経営参画した深い繋がりがあったという。
その山本氏が当時の民芸派の工芸作家を後援、(柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司、バーナード・リーチ、富本憲吉など)作品を収集していたことから、アサヒビールがその山本コレクション収集品の数々をここに寄贈し、展示されているのです。
一方、大山崎山荘と敷地は1960年代後半 加賀夫妻が没後、転々と人手を渡り、平成になるころには使用されずに荒れ果ててて、此処を取り壊し大規模マンションを建てる計画が出たのを機に、地元の文化人が保存運動を起こし、自治体と加賀氏と縁があった、ニッカウィスキーの持ち株会社でもある、アサヒビールが買い取り、建築家安藤忠雄が復元設計にかかわり、美術館として一部建て増して、アサヒビール大山崎山荘美術館として1996年(平成8年)に開館した。
実はボクが二十歳の頃(1973年頃)ここを会員制のレストランに改装する計画があり、その下見で会社の先輩方に同道して一度訪れたことがあるのだ。
ただしその頃の僕は、家内のごたごたや、高校の先輩ばかりの会社の営業部の空気の窮屈さに辟易していたころで、週末の山登りだけが唯一の生き甲斐だった。
全くこの山荘の価値などを知ることも無く、見る目も無い若造だったのだが。
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JRの線路を渡ると、そこが天王山の登山口。この急坂を500mほど登ったところが山荘入口になる。
天王山登山口
山荘までは15%くらいの坂道を500mほど登っていく。自転車だとちょっとしんどいが、歩きだと、どうってことは無い距離だ。
山荘入口の切通しと隧道。
山荘入口は切通しになっていて小さな隧道までしつらえられている、凝った造り。
中は撮影ができないのが残念だが、彫刻を施された石積みの壁面やステンドグラス、重厚な欧風の家具や柱、梁、この建物だけでも一見の価値がある。
玄関の重いドアを押して中に入ると、押さえられた照明に目が慣れるまで少し戸惑う。
受付で入場料を払う、JAF会員証で割引があった。
一階ロビーは財界人の別荘らしく凝った造りだ。中央の階段室の吹き抜けを見上げると三階の見事な天井の造りに見とれる。
山荘一階からの地下展示室のエントランス部分
安藤忠雄らしい造りだが、いささか山荘の雰囲気とは違和感を感じる。
観光地としては建築家のネームバリューも在ると思うので致し方ない処だろうか。
建築時、型枠にコンクリートを流し込み、型枠を外した後、超細かいサンドペーパーでつるピカになるまで、せっせと磨かれた物だという事を知っている方はあまり居ないと思う。
(最近は型枠のパネル自体が鏡面の物もあるようだが、やはり仕上げは手仕事で磨かれているようだ。)
地下展示室には、ここの収蔵品の売りである、モネの『睡蓮』やミロの彫刻と絵画、ロダンの『考える人』の小品、ルオーの『聖顔』などが常設展示されている。
全体に美術館としては小部屋が多く、展示作品数はかなり少ないほうだと感じた。
山荘裏庭に続く廊下は山荘の主人が晩年凝った西洋蘭の栽培温室に続く通路だったらしい。 現在は通路の先には半地下の展示室が増設され、加賀氏がその蘭を日本画家に描かせ、細密木版画にして出版までした、原画の展示室になっている。
本館三階は残念ながら一般に公開されておらず、入室はできないが。
この山荘の最も素晴らしい場所は2階の元主寝室に設けられた喫茶室のベランダからの眺めである。
大山崎の木津川、宇治川、桂川の三川合流、背割り堤、その先の石清水八幡宮の在る男山、京都南部から奈良の山々が一望できる。 ちょうど背割り堤からここを見上げた、そのままを見返した絶景が眼下に広がっているのである。
秀吉がこの地に三重塔を建て、山崎の合戦の地を見下ろしたように、天王山の山腹の最適な敷地に建てられた山荘の、この眺めを選んだ主人はどんな人物だったんだろうか。
ベランダでは記念撮影はできるが、ボクのカメラと腕ではその素晴らしさを写し撮ることができないので、あえてここでは載せないでおきます。
興味を持った方はぜひ一度訪れてみてください。四季を通じてこの山荘と庭は決して訪れる人の期待を裏切らないと思います。
ベランダで景色を楽しんでいると、朝はいい天気だった空がいつの間にか冬空になり肌寒い。この地、天王山らしく時折空が時雨れる。
16時、毎正時に演奏される2階階段室吹き抜けに有るドイツ製の大きな家具のようなオルゴールの演奏を聞きながら喫茶室でコーヒーとケーキのセットのおやつを摂り、ベランダで冷えた体を温めた。
16時半に山荘を辞す。
帰り道、隧道山荘側のプレートには『天王山悠游』と記されていた。
庭に在る 不思議の国のアリスのウサギのような彫刻、
この彫刻家の作品はどこかで見た記憶があるが、どこでだったか思い出せない。
今回はこの時期、一年で一番観光客の少ない時期を選んだ。山荘の造りをじっくりと観、味わうことができて正解だった。 山荘の創建当時の静かな雰囲気が伝わり、とても気に入った。 次回は出来れば、もっと賑わうであろう、春の桜の頃や、秋の紅葉の頃にも、背割り堤とともに訪れてみたいと思う。
同じ山崎に在るサントリー醸造所は此処から歩いても行けるほどすぐ近くだ。利き酒もでき、食事もできるので、こことは違った雰囲気が楽しめると思う。欲張って両方を訪れるのは、印象が散漫になるので、ボクはあまりお勧めしないが、朝から訪れれば、家族で丸一日を楽しめるかもしれない。
山歩きの好きな方は、天王山をハイキングした帰りに、休憩がてらに立ち寄るのも一計かもしれないと思った。