サイクリングエッセイ Hirobee's A day in the life

北摂里山のサイクリングとひろべぇの平凡な日々を綴ります。

朝日麦酒大山崎山荘美術館

12月21日、日曜日。京都府大山崎、天王山中腹に在る大山崎山荘美術館を訪ねた。
 
年に数回、サイクリングで淀川CRを辿って訪れる、マイフェイバリットポイントの一つ、京都府大山崎三川合流に在る、桜の名所、背割り堤。
 
その南端の広場で休憩していると、東には石清水八幡宮の在る男山を望み、西には宇治川桂川の向こうに、どっしりとそびえる、天王山を望む事が出来る。
 
その天王山の南東面の中腹に赤い大屋根が見える、大山崎山荘美術館は以前から一度訪れて見たいと思っていた処。 
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画像の中央にある中腹の赤い大屋根が大山崎山荘。(2013年)
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連休の午前中は道路が混みそうなので昼食後に午後から一家3人で出かける。
名神吹田ICから大山崎ICで降り、JR山崎駅の東側の踏切脇にある町営駐車場に車を置く、道が空いていたのでここまで約40分。
(山荘には駐車場は無い)
 
歩きで来る方には、阪急電鉄、JR、両山崎駅から、1時間に三本ほど山荘まで送迎バスも出ている。ぽつぽつ歩いても10~15分ほどだ。真夏以外は歩いて散策しながら訪れるのをお勧めする。
 
直ぐ近くにはNHK朝ドラ『マッサン』でお馴染みのサントリー山崎蒸留所もあり、両駅とも休日は観光に訪れる人で賑わうようだ。
 
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ここ、大山崎は昔からサントリー蒸留所があるために、近年に美術館として改築されオープンした大山崎山荘美術館サントリー系列だと思っている人が多いようだが。 正式名はアサヒビール大山崎山荘美術館。 
 
1900年代初頭に大阪の実業家、加賀正太郎がヨーロッパ外遊から帰国後に、自ら設計し、週末を過ごす別荘として建てた英国風山荘で。十数年ほどかけて一階建てから三階建ての欧風山荘へと改築された。その建築初期から、もうすぐ築後100年になる。
 
加賀氏はNHK朝ドラの主人公、『マッサン』こと竹鶴氏とは知人であり、竹鶴氏の独立、ニッカウィスキーの創立に出資、経営参画した深い繋がりがあったという。
 
加賀氏は没する直前に懇意にしていた、アサヒビール初代社長の山本為三郎氏にニッカウィスキーの株と経営をを託し、両社の繋がりは現在まで続いている。
 
その山本氏が当時の民芸派の工芸作家を後援、(柳宗悦河井寛次郎濱田庄司バーナード・リーチ、富本憲吉など)作品を収集していたことから、アサヒビールがその山本コレクション収集品の数々をここに寄贈し、展示されているのです。
 
一方、大山崎山荘と敷地は1960年代後半 加賀夫妻が没後、転々と人手を渡り、平成になるころには使用されずに荒れ果ててて、此処を取り壊し大規模マンションを建てる計画が出たのを機に、地元の文化人が保存運動を起こし、自治体と加賀氏と縁があった、ニッカウィスキーの持ち株会社でもある、アサヒビールが買い取り、建築家安藤忠雄が復元設計にかかわり、美術館として一部建て増して、アサヒビール大山崎山荘美術館として1996年(平成8年)に開館した。
 
実はボクが二十歳の頃(1973年頃)ここを会員制のレストランに改装する計画があり、その下見で会社の先輩方に同道して一度訪れたことがあるのだ。
ただしその頃の僕は、家内のごたごたや、高校の先輩ばかりの会社の営業部の空気の窮屈さに辟易していたころで、週末の山登りだけが唯一の生き甲斐だった。
全くこの山荘の価値などを知ることも無く、見る目も無い若造だったのだが。
 
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JRの線路を渡ると、そこが天王山の登山口。この急坂を500mほど登ったところが山荘入口になる。 
 
天王山登山口
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山荘までは15%くらいの坂道を500mほど登っていく。自転車だとちょっとしんどいが、歩きだと、どうってことは無い距離だ。
 
山荘入口の切通しと隧道。
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山荘入口は切通しになっていて小さな隧道までしつらえられている、凝った造り。
 
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山荘への道と前庭
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5500坪の山荘の敷地の隣には寺があり。 その昔、山崎の合戦の勝利の記念に秀吉が一夜で建立したという言い伝えのある三重塔が建つ。
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大山崎山荘 全貌
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山荘玄関
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中は撮影ができないのが残念だが、彫刻を施された石積みの壁面やステンドグラス、重厚な欧風の家具や柱、梁、この建物だけでも一見の価値がある。
 
大阪池田に在る阪急電鉄創始者の元舘、逸翁美術館とも通じるブルジョアジー的雰囲気を強く感じた。
 
今回はバーナード・リーチのお弟子さんともいえる『英国叙景・ルーシー・リーと民芸の作家たち』と題して、ボク好みの陶器の展示が行われていた.
 
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玄関の重いドアを押して中に入ると、押さえられた照明に目が慣れるまで少し戸惑う。
 
受付で入場料を払う、JAF会員証で割引があった。
 
一階ロビーは財界人の別荘らしく凝った造りだ。中央の階段室の吹き抜けを見上げると三階の見事な天井の造りに見とれる。
 
山荘の表と裏、二ヶ所に安藤忠雄設計による、安藤忠雄らしいコンクリート打ち放しの展示室が地下に増築されているが、表の展示室のエントランスは庭に露出し、山荘とは異質な風景を見せているイメージ 11
山荘一階からの地下展示室のエントランス部分
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安藤忠雄らしい造りだが、いささか山荘の雰囲気とは違和感を感じる。
観光地としては建築家のネームバリューも在ると思うので致し方ない処だろうか。
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 ところで、話が脱線するが。 この安藤忠雄の特徴ある、コンクリート打ち放しの壁は 近寄ってみると顔が映るほどにつるっと仕上げられているのだが。
建築時、型枠にコンクリートを流し込み、型枠を外した後、超細かいサンドペーパーでつるピカになるまで、せっせと磨かれた物だという事を知っている方はあまり居ないと思う。 
(最近は型枠のパネル自体が鏡面の物もあるようだが、やはり仕上げは手仕事で磨かれているようだ。)
 
地下展示室には、ここの収蔵品の売りである、モネの『睡蓮』やミロの彫刻と絵画、ロダンの『考える人』の小品、ルオーの『聖顔』などが常設展示されている。
 
全体に美術館としては小部屋が多く、展示作品数はかなり少ないほうだと感じた。
 
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山荘裏庭に続く廊下は山荘の主人が晩年凝った西洋蘭の栽培温室に続く通路だったらしい。 現在は通路の先には半地下の展示室が増設され、加賀氏がその蘭を日本画家に描かせ、細密木版画にして出版までした、原画の展示室になっている。
 
本館三階は残念ながら一般に公開されておらず、入室はできないが。 
この山荘の最も素晴らしい場所は2階の元主寝室に設けられた喫茶室のベランダからの眺めである。
 
大山崎の木津川、宇治川桂川三川合流、背割り堤、その先の石清水八幡宮の在る男山、京都南部から奈良の山々が一望できる。 ちょうど背割り堤からここを見上げた、そのままを見返した絶景が眼下に広がっているのである。
 
秀吉がこの地に三重塔を建て、山崎の合戦の地を見下ろしたように、天王山の山腹の最適な敷地に建てられた山荘の、この眺めを選んだ主人はどんな人物だったんだろうか。
 
ベランダでは記念撮影はできるが、ボクのカメラと腕ではその素晴らしさを写し撮ることができないので、あえてここでは載せないでおきます。
興味を持った方はぜひ一度訪れてみてください。四季を通じてこの山荘と庭は決して訪れる人の期待を裏切らないと思います。
 
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山荘前の通路から見る、庭石と石清水八幡宮の在る男山、三川合流
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ベランダで景色を楽しんでいると、朝はいい天気だった空がいつの間にか冬空になり肌寒い。この地、天王山らしく時折空が時雨れる。
 
16時、毎正時に演奏される2階階段室吹き抜けに有るドイツ製の大きな家具のようなオルゴールの演奏を聞きながら喫茶室でコーヒーとケーキのセットのおやつを摂り、ベランダで冷えた体を温めた。
(喫茶室ではアサヒビール系列のリーガロイヤルホテル謹製のケーキが楽しめます。アサヒビール限定ビールもメニューにあったので、夏場は電車で訪れて楽しむのが良いかも。)
 
16時半に山荘を辞す。 
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帰り道、隧道山荘側のプレートには『天王山悠游』と記されていた。
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加賀氏が山荘を建築中に、友人であった夏目漱石に山荘の命名を頼み、漱石からいくつかの案が届いた。しかし結局、主人はそれらを採用せずにこの地の名を重視し『大山崎山荘』と命名したという。
 
庭に在る 不思議の国のアリスのウサギのような彫刻、
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この彫刻家の作品はどこかで見た記憶があるが、どこでだったか思い出せない。
 
 
今回はこの時期、一年で一番観光客の少ない時期を選んだ。山荘の造りをじっくりと観、味わうことができて正解だった。 山荘の創建当時の静かな雰囲気が伝わり、とても気に入った。 次回は出来れば、もっと賑わうであろう、春の桜の頃や、秋の紅葉の頃にも、背割り堤とともに訪れてみたいと思う。
 
同じ山崎に在るサントリー醸造所は此処から歩いても行けるほどすぐ近くだ。利き酒もでき、食事もできるので、こことは違った雰囲気が楽しめると思う。欲張って両方を訪れるのは、印象が散漫になるので、ボクはあまりお勧めしないが、朝から訪れれば、家族で丸一日を楽しめるかもしれない。
 
山歩きの好きな方は、天王山をハイキングした帰りに、休憩がてらに立ち寄るのも一計かもしれないと思った。